美術大学と科学の接点としてのプロジェクト

金沢美術工芸大学の場合

 

《だいちの星座》プロジェクトは実験の積み重ねである。《たねがしま座》から《たかはぎ座》にいたる活動は、それら一つひとつが大規模な実験であったといえるが、金沢美術工芸大学ではこれらの活動に先行(または並行)して小規模な実験を繰り返してきた。鈴木は2013年に《だいちの星座》がスタートする以前にも、同大学の学生らとともに効率よく電波を反射する校正用の器具〈コーナ リフレクタ〉(以下、CR)を改良した芸術作品制作用のハンドメイドCRを最適化している(文化庁メディア芸術クリエイター育成支援事業「人工衛星を利用した地上絵制作プロジェクト」報告書)。同様に、2014年より〈製作プロセスの簡素化とコスト軽減を目的とした小型化〉、〈風荷重を軽減する電波反射面の金網化〉、〈運搬と保管を考慮したCRの折り畳み構造採用〉、〈撮影準備を容易にするCR底面仰角0度配置〉、〈CRの集中による撮影画像への影響確認〉、〈アルミ蒸着シート着用時の効率的な電波反射姿勢〉、〈CRの組立と配置手順の確立〉等の実験も行った。芸術を学ぶ学生にとって本活動が如何に機能したかを知るための参考として、《たねがしま座》の制作に参加した学生の当時の感想を掲載する。(学年は実施年時の表記)

(前略)日常生活の中で変化していく物事に興味がある私としては、このプロジェクトはたいへん有意義なものとなっています。今回の《たねがしま座》は、多くの方々の協力によって成功しました。各小学校のグラウンドで活動している人々の間に、星座のような繋がりが生まれ《たねがしま座》が完成します。芸術が人々を繋ぐ働きを担うだいちの星座プロジェクトは、国境を越えた世界規模での芸術活動も夢ではないように思いました。[大学院絵画専攻油画コース1年 吉田勘汰]

「科学の入口は芸術であっても良い」。このことを一番実感したのは私たちだったかも知れない。私はもともと宇宙って言い知れないロマンがあるなあ、と思っていた程度で、ましてや「科学」なんて文系の私にはとっつきにくい、という気持ちさえ持っていた。ただ、大学の中にいては味わえない面白いことがあるような気がして、このプロジェクトに参加した。

月に一回の定例会に参加して、プロジェクトの進行具合を確認するとともに、メンバーと宇宙について話す。みんなでロケット発射のライブビューイングを見たり、天体観測をしたりした。そして、《かなざわ座》実験の日。初めて自分たちの作ったリフレクタを宇宙に向けて設置した。肉眼では人工衛星は見えなかったが、衛星写真にはしかと星のような丸い点が写っていた。

自分が地球に点を描いたのだ。それを宇宙からの写真で確かめることが出来た。自分の存在がほんの少しだけど宇宙を変化させていることを実感して、興奮した。

目に見えないものを視覚化する。それは、芸術において長年試みられてきたことではないだろうか。私は、目に見えない「風」を表現しようとした、たくさんの彫刻家のことを思い浮かべた。彼らは、自分なりの解釈で風の形を石に刻んだり、木で彫ったりした。しかし、そういった作品の多くは、作品から何を感じることができるか、風を感じることができるのか、ということを個人的な想像力に任せているところがあった。

しかし今回のプロジェクトでは、目に見えないものを個人的な想像力ではなく確かな情報としてより多くの人が共有できるかたちとなった。「だいちに星座を描く」。こんな夢のようなことが「科学」によって実証されたのである。これは、「科学」と「芸術」の両方が歩み寄ってこそ出来たことだと思う。

種子島でのプロジェクトに行く頃にはすっかり宇宙のことが好きになっていた。種子島で美しい星空を眺めながら、友人とコアな銀河について語り合っていた。

今回のプロジェクトは、普段「芸術」の域に凝り固まっている私たちの感覚を、広い世界に解き放ってくれたように思う。よく、作品をつくる上で「客観性」とか「外からの視点」を大切にするように、と言われるが、このプロジェクトに参加したことで私たちは「地球の外からの視点」を味わった。

芸術に特化した活動に参加するのも悪くないが、こういった「いつもと違うところから芸術を捉える」活動に参加することが今、美大の学生が最も参加すべき活動ではないだろうか。[彫刻専攻2年 野村由香]

 

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